ヘクソカズラの慟哭
ヘクソカズラという名は、花や実を揉んだり、葉を傷つけたりすると不快な匂いが生じることに由来するそうですが、私が嗅いでみた限りでは、そんな屁糞のような臭いはしませんでした。嫌な臭気を感じるほどでもない。まあ、私の嗅覚感度は当てにはならないでしょうが。花は直径5ミリ程で中心が小さく紅色で、白いゆるやかな、縮み辺で縁どられていて、何とも愛らしい姿です。
別名が二つあって、花の美しさにちなんだ「サオトメカズラ(五月女蔓)」や「ヤイトバナ」の「ヤイト」はお灸のことで、その姿がお灸を連想させるからだそうです。
ヘクソカズラ(屁糞蔓)という、何とも言葉を発するにも憚れる、下品な名を付けられた彼女の人生の悲痛極まる心情たるや、如何ばかりかと察するに余りあります。その生の声をお聞きください。
「私は物心ついてからずっと、憂鬱な人生を過ごしてまいりました。な、なぜ植物には改名の権利は無いのでしょうか!?」
「別名の「サオトメバナ」ではお許しにならないのでしょうか!?」
「別名を通名で使用したら、お許しにならないのでしょうか!?一部の人間様はそうして、いらっしゃるではありませんか!?」
「更に申し上げますが、【英名】Skunkvineの"スカンク"を取り除いて下さい!私はその様な著しくけたたましい悪臭は発せません。ひ、ひィ、酷すぎます。ウ、ウッ...(泣)」
と、彼女の慟哭が木霊(こだま)となって、今夜も静けさの中に、たおやかな風の流れに乗って、はっきりと聞こえてまいります。何と、秋の夜長の、饒舌なことでしょう...(ん?)
因みに、わたくし亡父の出身は沖縄県宮古島です。戦前年若くして、本土へ働きに出て来て、名前を何て呼ぶのかと度々聞かれるのが嫌で、それまでの「恵繁(けいはん)」から誰もがすぐ判るよう「清志(きよし)」へ改名したそうです。生前も通夜の席でも、父の兄弟妹等は「恵繁(けいはん)」と呼んでいました。
2022.11.6記