武者小路実篤の花讃・桃
「仲良きことは美しき哉」
「君は君 我は我なり されど仲良き」
「この道より我を生かす道はなし、この道を行く」
これらは実篤の有名な言葉として残っています。小説家、随筆家としてだけではなく、絵を描くことが好きだった彼が、花や野菜果物にも観察眼の高い見識を述べています。「桃の節句」が近づく今日この頃に、ぴったりだと思い、彼のエッセイから抜粋引用しました。以下、桃について、柿との比較感想を述べています。
=桃は花も、柿とちがってじつに美しい。もっとも木の枝ぶりなど柿は桃より面白いとも言える。柿の木は木肌も特別だが、姿、枝ぶりなどなかなか雅味がある。若々しい美しさよりも骨ばった美しさで、桃は美しい娘を思わせるとすると、柿は仙骨のある仙人の面白さである、木全体は。しかし花だけで言えば花は一寸画にかく気になれないが、桃はすばらしく美しい、花のことにふれると切りがないが、柿と桃とあまり反対なので一寸ふれてみた=
=しかし実の美しさから言って、その美しさの東洋的な処から言って、桃と柿はいいとり合わせで、桃の実の美しさは柿に負けない。感じはちがうが、どっちもどっちで、なかなか美しく、画にもよくかかれる。桃の実の形と色、共に美しい。瑞々しい点で桃以上の果実はないように思う。ここでも柿の方に雅味があり、桃の方が初々しい美しさがある。画にかくには在来種の桃の方がかきたいが、食べるのだとやはり水蜜桃の方が好きである。あまりに水気が多く、水がしたたるので食べる時手がにちゃつくので困るほどだが、それだけ味はまた特別で、柿の最上のものに匹敵するうまさがある。甘露、想像出来る限りの甘露の味である=
=桃は艶々していて若い娘のような美しさである。 一枝とって来て見て美しいと思うのは桃ではないかと思うが、枝ぶりのいいのは少ない。画にかこうと思っても、なかなか気に入った枝を捜すことが出来なかったが、それはいい桃の木を知らないからかも知れない。実を主にした桃に、よき花を求めるのは無理かも知れない。しかし美しい花である。女の子の祭りの三月節句に桃の花を飾るのは、実にぴったりした感じがする。女の子に適する花を捜せば桃の花より他にはないように思われる=
以上。
長崎では「桃の節句」の贈答には、”桃カステラ”があります。今年もさっそく、賞味しました。一個、860円也(税込み)...
2023.2.7記